鋳造は液体状態の溶湯を鋳型の中で固体にする過程を用いる。この金属の液相から固相への変化を表現する図として図1に平衡状態図があり、合金の添加元素の割合を横軸に温度を縦軸にとって示される。図1に鋳鉄の例を説明に必要な部分のみを示した。
図1において炭素含有量2%の合金が破線に沿って温度が下ると、液相から液相線を横切る。この時の温度を液相線温度という。更に温度が低下すると固相と液相が共存する状態を経過して固相線を横切る。この時の温度を固相線温度という。固相線以下では固体のみが存在する状態である。
溶湯は湯流れとして、液相状態で鋳型の中に流れ込んでくるが、それと共に温度が低下していき、流動の先端部から凝固が始まる(図2)。その結果、先端部で凝固被膜が発生するか、あるいは固液共存相の粘性が大きくなって流動停止が起こる。溶湯が鋳型の隅にまで到達しない内に流動停止が起こると溶湯が鋳型の中に十分行き渡らなくなる。
物質が相を変えるときに熱の出入りがある、良く知られている例は水が蒸発するとき、つまり液相から気相に変化するとき温度が変わらないままで熱を吸収して蒸気となる。これを気化熱または潜熱という。同様に固相から液相に変化するときも熱を吸収する。これに対して相の変化が逆の場合、温度変化はなく熱を発散して相変化するがこれもまた潜熱という。液相から固相に変化して溶湯が凝固する場合、やはり熱を発散するこれを凝固潜熱といい、単位は(J/g)である。
溶湯が凝固していく過程では長さ方向に温度差があるが、単位長さ当りの温度差(dT/dx)を温度勾配( g )という。このとき熱エネルギーは温度の高い方から低い方に流れていると考えられる。ここでの単位面積当り単位時間内に流れる熱エネルギーを熱流速(q
)という。そして熱流速と温度勾配の間には q =−λg の関係がある。この比例係数λは熱の伝わりやすさを示す係数であることから熱伝導率と言い、単位はW/(m・K)で表される。なお溶湯の熱伝導率や比熱は固相の値よりは一般に低い値となる。鋳造で用いられる物質の物性値を表1に示す。
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図1 鋳鉄の平衡状態図 図2 流動停止状態1)
物性値
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低合金鋳鋼
(1600℃) |
普通鋳鉄
(1400℃) |
純アルミニウム
(700℃) |
純銅
(100℃) |
純マグネシウム
(700℃) |
液相線温度度(℃) |
1430〜1530 |
1123〜1180 |
660 |
1083 |
651 |
密度(kg/m3) |
6800〜7000 |
6500〜6900 |
2350 |
7900
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1580 |
比熱(J/(g・K)) |
0.61 |
0.92 |
1.09 |
0.50 |
1.26 |
熱伝導率(W/(m・K)) |
40(純鉄) |
− |
100 |
170 |
80 |
凝固潜熱(J/g) |
251〜268 |
209〜268 |
394 |
205 |
230 |
表1 鋳造で用いられる材料の物性値1
1) 日本機械学会、機械工学便覧B-2-5、B-2-7、日本機械学会
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