アルミ合金は材料自身の持つ優れた特性、すなわちリサイクル段階で製錬時の3%のエネルギで再生できるという環境対応性能や、軽量性のうえに、鋳物・ダイカストによる成形の容易なことなどの長所が注目されアルミ合金鋳物は近年広く用いられるようになった。中でも自動車関連製品に多く用いられている。代表的なアルミ鋳造合金としてはAl-Si系(AC3A)、Al-Si-Cu-(Mg)系(AC2A、AC2B、AC4A、AC4D)を上げることができる。表1にそれらの特徴と用途を、表2に物理的性質を示す。アルミ合金の一般的な性状は次の通りである。
- 物理的性質 鋳造合金ではSiにより熔解温度や湯流れなどの鋳造性ばかりでなく物理的性質も大きく変化する。液相線温度はSi量の増加と共に共晶温度までは上昇するが、共晶温度をすぎると減少する。また固相線温度はSi、Mg、Znの添加により低下する。
密度はCu、Niなどを含有した場合大きくなり、Mg、Siを含有した場合は小さくなる。熱膨張係数は含有するSiの量が増加することによって低下するが、Mg、Znの添加は熱膨張係数を増加させ、Cuの添加は低下させる。
- 化学的性質 アルミは大気中に於いて1nm程度の緻密な自然酸化被膜が形成される。この被膜が優れた耐食性能を持つのでアルミが広く使われる理由の一つになっている。これを合金化するとアルミの持つ特性の上に添加元素の特徴を生かすことができるが、不純物が混入した場合、自然酸化被膜の連続性に影響をおよぼす。
- 機械的性質 アルミ合金鋳物は冷却速度の増加や共晶Siの微細化と共に機械的性質(引張強さ、伸び)は向上する。しかしガス量の増加と共に機械的性質は低下する。各種鋳造方法との比較では砂型、金型、低圧鋳造、ダイカストの順に冷却速度は速くなるので、どの鋳造法を選ぶかは製品の要求項目と経済性を加味して選択する。
表1
種類 |
記号 |
合金系 |
鋳型区分 |
相当合金名 |
合金の特色 |
用途例 |
鋳物
2種A |
AC2A |
Al-Cu-Si系 |
金型,砂型 |
|
鋳造性がよく、引張強さは高いが、伸びが少ない。一般用として優れている。 |
マニホールド、デフキャリア、ポンプボデー、シリンダヘッド、自動車用足回り部品など |
鋳物2種B |
AC2B |
Al-Cu-Si系 |
金型,砂型 |
|
鋳造性がよく、一般用として広く用いられている。 |
シリンダヘッド、バルブボデー、クランクケース、クラッチハウジングなど |
|
AC3A |
Al-Si系 |
金型,砂型 |
|
流動性が優れ、耐食性もよいが、耐力が弱い。 |
ケース類、カバー類、ハウジング類の薄肉、複雑な形状のもの、カーテンウォールなど |
鋳物4種A |
AC4A |
Al-Si-Mg系 |
金型,砂型 |
|
鋳造性がよく、じん性が優れ、強度が要求される大型鋳物に用いられる。 |
マニホールド、ブレーキドラム、ミッションケース、クランクケース、ギヤボックス、舶用・車両用エンジン部品など |
鋳物4種D |
AC4D |
Al-Si-Cu-Mg系 |
金型,砂型 |
ISO:AlSi5CulMg
ASTM:A356.0 |
鋳造性がよく、機械的性質もよい。耐圧性が要求されるものに用いられる。 |
水冷シリンダヘッド、クランクケース、シリンダブロック、燃料ポンプボデー、ブロワハウジング、航空機用油圧部品及び電装品など |
表2
合金
|
密度
(Mg/m2) |
凝固温度範囲
(℃)
|
熱膨張係数(10-6/℃)
|
熱伝導率
(W/m2℃)
(25℃) |
弾性率
(kN/mm2) |
液相 |
固相 |
20〜100℃ |
20〜200℃ |
30〜300℃ |
縦 |
横(せん断) |
AC2A |
2.79 |
610 |
520 |
21.5 |
22.5 |
23.0 |
142 |
73.5 |
24.0 |
|
2.78 |
615 |
520 |
51.5 |
23.0 |
23.5 |
109 |
74.0 |
24.5 |
AC3A |
2.65 |
585 |
575 |
20.5 |
21.5 |
22.5 |
121 |
77.0 |
25.0 |
AC4A |
2.68 |
595 |
560 |
21.0 |
22.0 |
23.0 |
138 |
75.0 |
25.0 |
AC4D |
2.71 |
625 |
580 |
22.5 |
23.0 |
24.0 |
151 |
72.5 |
24.0 |
表1) JIS H 5202
表2) 鋳造工学便覧、p450、表10-5 |