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切削熱

 切削に必要とする動力の大部分は被削物が工具によってせん断されるためのせん断変形仕事と、すくい面と切屑の間で発生する摩擦仕事に使われる。それらのほとんどは熱になって切屑と共に取り去られるが、一部は残留歪みエネルギとして材料の内部に残る。図1は切削部分での温度分布の数値計算の一例である1)。図1左は工具の上方から見た温度分布であり、図1右はA−A' 断面内の温度分布を示。この図から刃先の少し上の部分、およそクレータ摩耗の発生する位置に最高温度が発生することが分かる。
 この切削部分の温度解析はいくつかの試みはあるが、ここではLoewenとShawによる解析解で導かれる結論を示す2)。まずすくい面の温度を次の条件で切削された場合を基準として考える。

表1 比較基準としての切削条件
被削材 すくい角 工具 切削速度 切削幅 切取厚さ
S45C 0度 超硬 P50 100m/min 2.0mm 0.2mm

 工具や被削物の熱伝導率はすくい面の温度に影響をおよぼす。工具の熱伝導率が低い場合、すくい面温度は上昇する。例えばセラミック工具では表1の基準である超硬工具の場合よりもさらに100度ほど上昇し、逆にCBN工具やダイヤモンド工具では温度上昇は40%程度低下する。また被削材の熱伝導率が小さい場合も同様で難削材では表1の場合の3〜4倍に達する。切屑の影響についてはすくい角を大きくしたり、チップブレーカをつけることにより切屑接触長さを短くすると切削温度は低下する。
 また被削物の硬さとの関連では硬さが増加するとせん断仕事が大きくなるため、切削温度は上昇する。しかし硬度がある程度大きくなると切屑の形態が変化してせん断角が大きくなり、平均切屑厚さは薄くなる。その結果せん断仕事や摩擦仕事が減少して切削温度は低下する。


図1 切削部の温度分布1)


1) 日本機械学会、機械工学便覧B-2−121、日本機械学会
2) 精密工学会、精密加工実用便覧、(2000)、p29、日刊工業新聞社


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